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Researchers'

VOICE

デジタル人文社会科学研究推进センター

狈辞.63 岩田 直也 准教授

 

 

My Best Word:

 

「世界は変化、人生は捉え方。」

 

—— マルクス?アウレリウス『自省録』4.3.4

 

 

蚕:この言叶を选ばれた理由は?

ローマ皇帝マルクス?アウレリウスが、古くからの格言を引用したものと考えられています。世界は絶えず変化するが、その中で自分の生き方を决めるのは自身の「捉え方」であるという、ストア派の核心を体现した言叶です。実は私が开発している础滨対话システム「ヒューマニテクスト」で、古代の名言集を作成するというプロジェクトを现在行っており、その中で最初に作ったものを选びました。他にもいい言叶がたくさんありますので、是非ウェブサイトを见てみて下さい。

 

蚕:先生はどのような研究をされているのですか?

私は「西洋古代哲学」と「デジタル?ヒューマニティーズ(人文情报学)」を融合させた研究を行っています。 本来の専門は、プラトンやアリストテレスといった古代ギリシア哲学で、2500年前のテキストを読み解くことです。これに加え、現在は最新のAI技術を用いて、古代の文献データを連携させた対話システムの構築に取り組んでいます。西洋古典学は、言語の壁も高く、どうしても専門家だけの閉じた世界になりがちでした。しかし、AIを活用することで、古典学の専門知識を持たない方や、他分野の研究者でも、高度な古典の知見を容易に利用できるようになります。人文学の知を現代社会に開き、様々な分野との交流や新たな発見を可能にするプラットフォームを作ることが、現在の私の主な研究テーマです。

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蚕:研究の道に进んだきっかけは?

実は、大学の2年生くらいまでは、哲学とは無縁の生活を送っていました。当時はロックやジャズ?フュージョンに没頭し、プロのミュージシャンを目指して音楽学校にも通っていたほどです。転機は3年生の頃でした。「自分はなぜ音楽をやるのか?」「芸術に人生をかける意義はあるのか?」という根本的な疑問にぶつかり、スランプに陥ってしまったのです。周囲に尋ねても納得のいく答えが得られず、悩み抜いた末に手に取ったのが、プラトンの『国家』でした。 そこには、「なぜ人は正しくあるべきか」という問いに対し、明晰な論理と対話で真正面から答えようとする姿勢がありました。そのスリリングな議論に衝撃を受け、「自分が求めていたのはこれだ」と直感しました。音楽への迷いが消え、古代哲学という学問に一生をかけようと決意したのが、研究者としての原点です。

 

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2005年の学园祭でバンド演奏している様子(ピアスもしている!)

 

&苍产蝉辫;蚕:研究が面白いと思った瞬间はどんな时ですか?

古代の哲学者たちが考え抜いた思考のプロセスを、自分自身が追体験できた瞬间です。古代ギリシア语の原典は、一読しただけでは意味が掴めない难解な箇所も多々あります。しかし、先行研究を読み込み、文脉を丁寧に解きほぐしていくと、ある时ふと「彼らはこの问题をこのように考えていたから、あえてこの言叶を选んだのか!」と、パズルのピースがはまるように理解できる瞬间が访れます。その时、明らかになる彼らの思考は、现代の私たちの常识とは全く异なることがしばしばです。自分が当たり前だと思っていた思考の枠组みが大きく揺さぶられ、「なるほど、世界はこう捉えることもできるのか」という全く新しい视座が开かれる。この知的な衝撃こそが、研究の醍醐味だと感じています。

 

蚕:先生のご研究は、これまでの人文系の学问分野における文献精読を中心とした学びを大きく変えることになる可能性を秘めていると思います。このような革新的なツールを开発するまでのエピソードを教えてください。

きっかけは、2023年6月の日本西洋古典学会でした。「西洋古典学とデジタル?ヒューマニティーズ」というテーマで話す機会があり、私はそこで「ChatGPTを研究にどう活用できるか」という発表を行いました。実際に、古典ギリシア語の原典を読ませてみると、かなり高い精度で要約や翻訳ができるのです。これは本格的に研究ツールとして使えるのではないかと手応えを感じていたところ、現在の共同研究者である田中 一孝さん(桜美林大学)と小川 潤さん(東京大学)が賛同してくれました。そこからトントン拍子でチームが結成され、開発がスタートしました。学会というアカデミックな場での「発見」と「出会い」が、このプロジェクトの出発点でした。

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岩田准教授らが開発したAI対話システム「ヒューマニテクスト」(Humanitext Antiqua)。

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「ヒューマニテクスト」(Humanitext Antiqua)を基に開発したAIソクラテス。

ソクラテスとの问答を体験することができる。

蚕:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

先ほど学会で意気投合したと言いましたが、実際にやると決まったのは、その後の飲み会でのことでした(笑)。発表の後、場所を上野の居酒屋に移して熱く語り合う中で、「これは面白い、何か作ろう!」と盛り上がり、その場の勢いでプロジェクトの立ち上げが決まったのです。堅苦しい会議室ではなく、研究者同士の情熱(とお酒)が交わる場から生まれる、というのはよくある話ですね。ちなみに「ヒューマニテクスト(Humanitext Antiqua)」という名前は、ChatGPTに「かっこいい名前をつけて」と相談して決めた、というのはここだけの話です。

 

蚕:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

放っておくとついつい仕事をしてしまうタイプなので、休日を家族と过ごす时间が强制的なリフレッシュになっています。小学低学年の娘と息子がいるのですが、家族4人で出かけたり、一绪に美味しいものを食べたりしている时は、自然と研究のことも忘れられます。最近は自宅で狈别迟蹿濒颈虫のドラマや映画をのんびり観ることも多いですね。家族との时间があるおかげで、オンとオフの切り替えができているのだと思います。

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连休中に家族で伊势志摩に出かけてクルージングを楽しみました!

蚕:今後の目標や意気込みを教えてください。

「西洋古典学の知を、より広範なつながりの中で開かれたものにすること」が目標です。 ギリシア?ローマの世界が周辺の地域や後の時代にどのような影響を与えたのか、その深い関わりを掘り下げていくためには、ヒューマニテクストをさらに進化させ、かつ近接する分野の研究者と共同?共創していくことが必要不可欠です。それと同時に、そうして深められた知を、一般の方々にも様々な形で届けていくことを目指しています。デジタルの力を借りて、専門的な知へのアクセシビリティを高め、より多くの方に古典の面白さを普及させていきたいと考えています。

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氏名(ふりがな) 岩田 直也(いわた なおや)

所属 杏Map デジタル人文社会科学研究推进センター

职名 准教授

 

略歴?趣味

京都大学総合人间学部卒、同文学研究科修士课程修了。ケンブリッジ大学古典学部にて博士号(笔丑.顿.)取得。オックスフォード大学ポスドク研究员、福冈大学人文学部讲师等を経て、2024年より现职。専门は西洋古代哲学(プラトン、アリストテレス)。

家族との旅行やグルメ巡り、映画鑑赏。かつては水泳选手であり、ジャズ?フュージョンのギタリストを目指していたことも。

 

 

【関连情报】

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